第10章 臨床(介入) Flashcards
転移と逆転移
心理面接中に,クライエントが援助者に抱く非合理的な感情を抱くこと転移といい,転移によって援助者がクライエントに非合理的な感情を抱くことを逆転移という。転移は,クライエントが重要な他者に向けている感情が,援助者に向けられたものと考えられ,クライエントの理解の促進につながる。逆転移は,かつて発生そのものを防止すべきと考えられていたが,現在ではなぜ逆転移が生じているのか援助者が洞察し,心理面接に生かすべきと考えられている。
精神分析療法
精神分析療法とは,問題行動の原因を無意識に抑圧された心的外傷体験によるものと考え,その心的外傷体験の意識化と,その意識化に耐えうる自我の強化を目指す心理療法である。意識化には主に自由連想法や夢分析が用いられる。生じた抵抗や転移は,解釈を与えることにより,クライエントの自己洞察を促す。洞察と解釈をくり返す徹底操作により自我が強化され,意識化された心的外傷体験に向き合えるようになる。
行動療法
行動療法とは,問題行動を誤った学習によるもの,あるいは適切な学習がなされていないものとみなし,条件づけなど学習理論を用いて,不適切な行動の消去と適切な行動の獲得を目指す心理療法である。行動療法では,精神分析で取り扱われるような無意識や防衛機制など観察することのできない構成概念を想定せず,直接観察される行動のみを治療対象とする。代表的な技法にウォルピの開発した系統的脱感作法がある。
認知行動療法
認知行動療法とは,物事に対する認知を変えることで,行動の変容を促す技法のことである。心理療法の中でも比較的新しく発展してきた領域で,意識の存在を軽視する行動療法に対する批判から,人間の意識的な認知作用を再び重要視する流れのもと生まれた。代表的な技法に,ネガティブに偏った認知の変容を目指すベックの認知療法や,ABCDE モデルに基づくエリスの論理情動療法,観察学習理論に基づくバンデューラのモデリング療法があげられる。
クライエント中心療法
クライエント中心療法とは,ロジャースによって提唱された非指示的な心理療法である。人は誰もが自己概念と経験を一致させていこうとする自己実現傾向をもっており,カウンセラーとの適切な関係性があれば,自己概念と経験の不一致状態にあるクライエントも,自己実現傾向を発揮できると考えた。ただし,そのようなクライエントとの関係性を築くためには,共感的理解,無条件の肯定的関心,自己一致というカウンセラーの3条件が必要とされている。
フォーカシング
フォーカシングとは,ジェンドリンによる心理療法である。ジェンドリンは,クライエントの中に存在する,言葉にできない漠然として滞った感情が身体感覚として現れると述べ,その身体感覚をフェルト·センスとよんだ。このフェルト・センスの存在にクライエント自身が気づき,言葉などで表現できるようになることで,自身の滞った感情を健全な方向に流していけるようになる。この状態がフェルト・シフトとよばれるフォーカシングの目標である。
交流分析
交流分析とはバーンによって開発された対人関係に関する理論とそれに基づく心理療法のことである。交流分析では対人関係のあり方を分析するため,エゴグラムという質問紙を使って,①批判的な親の心②養護的な親の心 ③大人の心④自由な子どもの心⑤順応した子どもの心,という5つの心の分析を行う。その結果から,人が強迫的に従ってしまう対人関係の様式を発見し,新しく適切な対人関係の様式を再構築することが,交流分析の目的である。
家族療法
家族療法とは,問題が顕在化しているクライエントをIPとよび,IPの問題はIP個人の問題だけでなく,家族システムが十分に機能していないために生じていると考え,家族システムが健全に機能するよう介入していく心理療法のことである。ベイトソンの二重拘束説によって,不健全なコミュニケーションが個人の問題を生む可能性が指摘され,以降,各家族構成員が問題の原因でもあり,結果でもあるという円環的因果律に基づく家族療法が発展した。
遊戯療法
遊戯療法とは,言語能力が未熟で内的な世界を言語で表現することが困難な子どもを対象に,遊びを媒介として自己表現を促す心理療法である。遊戯療法ではアクスラインの8原則に基づき,子どもの主体性を重視し,自由に遊べる空間を作り上げると同時に,子どもとカウンセラーの安全を確保するための制限も用意する。この制限があることにより,子どもが不必要な心配や罪悪感を抱くことなく,安心して自己表現をすることが可能となる。
箱庭療法
箱庭療法とは,カルフによって確立された,クライエントが自由に箱庭を作っていく心理療法である。クライエントは箱庭を作ることで,自分の内的な世界を表現することができ,内的な葛藤が解放されてカタルシス効果が得られる。また,創造的な活動に取り組むことにより自己治癒力が発揮される。箱庭療法をはじめとする芸術療法は,言語化することが困難な対象にとくに有効な療法で,子どもだけでなく大人に対しても用いられることが多い。
日本独自の心理療法
日本独自の心理療法として代表的なものに,森田療法と内観療法がある。森田正馬が考案した森田療法は,不安や恐怖が特別なものではなく,自然なものとして受け入れることで「あるがままの自分」を受容し「とらわれの機制」を打破していく心理療法である。吉本伊信が考案した内観療法とは,身近な家族や知人に対して「してもらったこと「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3点を報告し続けることで,人生観や行動の修正を図る心理療法である。
効果研究
ある特定の心理療法の効果があるか否かを検討することを効果研究という。具体的には,心理療法を施す群と施さない群を用意し,施した群に改善が見られれば効果はあるといえる。だが,問題を抱えたクライエントに心理療法を施さないことに関する倫理的問題が発生する。まだ,効果が確定していない心理療法を施すことに対する倫理的問題にも目を向けねばならない。このように,効果研究は臨床現場としての倫理的問題を考慮しながら慎重に進める必要がある。